2009年12月12日 ”鷲ガ頭山”

鶴姫伝説を尋ね、神の島の最高峰・鷲ガ頭山に登る

 

しまなみ海道のほぼ中央に位置する大三島に、うら若き乙女鶴姫の伝説が残っている

時は戦国時代、父から授けられた鎧を身につけ、周防大内軍と勇敢に戦い勝利を収めたが

戦で恋人を失った哀しみのあまり、後を慕って自らも海に消えていく

「瀬戸内のジャンヌダルク」とよばれる僅か18歳の乙女の、運命(さだめ)とはいえ、あまりに哀しい話です

大三島はまた、日本総鎮守と呼ばれる大山祇神社が鎮座する神の島

その神社を護るかのように背後で大鷲が羽を拡げている

今日は鶴姫伝説に想いを馳せながら、島の最高峰鷲ガ頭山(436.5m)を歩いてみよう

「紺糸裾素懸威胴丸」(こんいとすそすがけおどしどうまる)を身に纏い凛々しい姿の鶴姫

鶴姫が着用したとされる胴丸が、大山祇神社に展示保存されているが

日本に現存している、唯一の女性用胴丸だそうだ

何を見つめる?鶴姫  討死した恋人越智安成か、それとも海道の行く末か?

(注、しまなみ海道10周年記念作品 ミュージカル「鶴姫伝説瀬戸内のジャンヌ・ダルク」が

坊っちゃん劇場で2010年3月まで公演されています)

トラックログはイメージ図です(カシミールソフト使用) 
「この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び
数値地図50mメッシュ(標高)を使用したものである。」(承認番号 平18総使、第582号)

 

役場駐車場〜大山祇神社〜安神山〜鷲ガ頭山〜入日ノ滝〜自然休養林探勝路〜鎖場往復〜

鶴姫ロード〜宮浦港〜阿奈波神社〜御串山〜役場駐車場             (6時間)

 

9時15分 港近くの大三島町役場に車を駐め歩き始める

「神の島」大三島の中心宮浦地区は大山祇神社の門前町

宮浦港にある一の鳥居から神社まで、石灯籠が並び立つ雰囲気のよい町並みが残っている

大山祇神社は山の神、海の神、戦いの神として尊崇を集めた神社

多くの参拝客が宮浦港に上陸してこの参道を歩いたのだろう

しまなみ海道が出来、はたしてこの参道を歩く参拝者が増えたのか、減ったのか

そんなことを考えながら歩いていると、早速目にとまりました 「鶴姫鎧せんべい」

どんなせんべいなのかな? 鎧だから固くて歯がたたなかったりして 

帰りの楽しみにとっておこう

歩き始めて10分程で「鶴姫公園」

戦国時代、大三島を守る戦いで僅か18年の生涯を閉じた鶴姫にちなんだ公園

高い櫓は、周防大内軍から島を守る見張り台か?

園内には鶴姫と恋人の安成のモニュメントや、鶴姫の鈴の音にあやかった水琴窟がある

二人は来世で夫婦になれたのかな?

大山祇神社二の鳥居を潜り境内に入る

鳥居の正面に掲げられている額は、平安時代日本三蹟の一人といわれた藤原佐理が

「日本総鎮守大山積大明神」と直筆、奉納の神号扁額

大山祇神社は天照大神の兄神、大山積神を祀り、全国1万余社の大山祇神を祀る総本社でもある

境内にある宝物館には、全国の国宝・重要文化財に指定されている武具・甲冑類の8割が収蔵されている

能因法師 雨乞いの楠 樹齢3000年

大山祇神社の楠群は、日本最古の原始林社叢の楠群として、

昭和26年に国の天然記念物に指定(対象樹38本)されている

社殿前に乎知命(おちのみこと)御手植の楠 樹齢2600年

此の外、宝物館への道筋に苔むして横たわる「河野通有兜掛の楠」等々、楠がいっぱい

境内を左に抜け、鷲ガ頭山登山道を進んでいると、奥之院、生樹の御門の指標が導く

奥之院へお参りしてから安神山を目指そうと、左折

県指定天然記念物 「生樹の御門(いききのごもん)」

樹齢3000年の老楠の洞門を潜って行くと、大山積神社奥之院

(洞門を潜らなくても、直ぐ左側に奥之院へと続く道がある)

「生樹の御門」から、元の道に引き返せば良かったのに

何となく坂道を上がって来たけど・・・道が段々左に振り出しどうも変

もう少し山際を行く筈だと、別所橋の袂まで引き返すと「安神山わくわくパーク」の標識が見えた

「安神山わくわくパーク」側を安神山(正面のピラミッド)に向って自然研究路を上って行く

此処から安神山まで800m、目指す鷲ガ頭山まで2400m

鶴姫(1526年?〜1543年)は大山祇神社の大宮司・大祝安用の娘

大祝氏は、元伊予河野氏の一門、代々神職として戦場に立つことはなかったが

いざ戦という時は、一族の者を陣代として派遣していた

1541年には戦死した兄安房に代わって16歳の鶴姫が陣代として出陣している

幼いころの鶴姫は此の辺りを駆け回り、武具の似合う女海将に育っていったのだろう

帰りに歩く予定の自然休養林探勝路を右に分け、足応えのある坂を上って行く

パークから10分程で展望台、目の前の島々が箱庭の様に見えだした

左上は大崎上島、中央が宮浦港、そのすぐ左の一際緑の濃い勾玉みたいな山が

ちょっと気になる御串山(みぐしやま 65.8m) あとからお邪魔します

よく整備された遊歩道が安神山へと続くが、それにしても結構急坂

早くも、汗ビッショリ

10時40分 安神山(やすがみやま 267,1m)

海の神・竜王大権現を祀り、横には石鎚大神の碑が置かれている

恐らく南には石鎚山が望めるのだろうが、今日の見通しではちょっと苦しい

南下には大三島の水瓶、台(うてな)ダムの湖面が光っている

これから歩く稜線を目で辿ってみる 見通しの良い尾根の終点が目指す鷲ガ頭山

2005年に起きた火災の映像を思い出しながら爪痕を眺めると、所々に緑が復活している

此の辺りには、烏帽子のような花崗岩の露頭が沢山見られる

それにしても、なんとも不安定な岩 誰よ、こんなところでブロック遊びしたのは!

振り返ると、安神山も鷲が羽を拡げた様な形をしている

目指す本峰が「わしが父さん(鷲ガ頭山)」、ほんなら「きみが母さん」だね

かなり強引なこじつけだけど・・・子どもの鷲が、何処かに飛んでいないかな?

帰路は、此処から電柱に沿って下りて行く

指標の方角を見下ろすと、道らしい道も無いし転がった方が早そうな急坂

車道を横切り、目の前の尾根を一気に頂上を目指す 

上にも車道が見える 手前の車道から頂上まで距離500m

 此処までは鷲の羽根の部分を歩いて来たが、此処からは首を辿り頭に出る

と言う事は、急なって事だわ

11時30分 鷲ガ頭山山頂(436.5m)

何年か前、車で上がって来たけど、歩いては今回が初めて

展望は無いが、側の石積みに上がれば雑木越に西方面が望める

来島海峡大橋の向こうに今治の街 西の方から雲行きが怪しくなって来た

頂上下の広場で休んでいた15名ほどの団体さんが、合唱されている

「雨降りお月さん〜♪雲の上〜♪」 あらら、本当にぽつりぽつりと来だしたわ

15分程休み下山開始

先ほどの分岐まで戻り、電柱に沿って急下降

早い、早い (分岐から入日ノ滝寺まで20分でした)

あっという間に急坂を下り切り、羊歯のトンネルを潜る 

此の辺りが滝の真上、右へ大きく迂回しながら滝に下りて行く

12時25分 入日ノ滝 滝山川上流に位置する落差15mの滝

夕暮れ時には、夕日の照り返しに染まり幻想的だそうだ

入日ノ滝寺を後にし振り返ると、寺の背後に先程歩いた尾根が見える

舗装路を少し下り、車の回転場に立つ自然休養林探勝路入口の指標に従い遊歩道に入って行く

最初は少し上りだが、すぐに快適な水平道になる

西側に開ける展望や、頭上の岩のモニュメントを見ながら進んで行く

今朝歩いた登山道との合流地点が近付いて来た頃、右に整備された階段状の道が目に止まる

迫って来る剥き出しの大岩群に圧倒されながら急坂を頑張り、左にトラバースして小尾根に出ると

せんべいの様な大岩に鎖が垂れている(写真左方です)

ちょっとお鎖を懸けてみる

足場が無い上、先ほど降った雨で岩が濡れているのでとてもとても

この鎖場はひよっとしたらおてんば鶴姫の遊び場だったのかな?

のんびり展望を楽しみ、散り際の紅葉を見ながら麓へ下りて行く

今年の紅葉も、終わったなあ

「安神山わくわくパーク」まで下りて来た

綺麗に整備された公園なのに、今日は誰も居ない

桜が咲く頃は賑わいそうだ

鶴姫ロードを歩き、土産物街を抜けて次の目的の山、御串山へ

それにしても麓にはやたらと「鶴姫」が溢れている

鶴姫ロード、鶴姫公園、お土産鶴姫屋、銘菓鶴姫物語、鶴姫鎧もなか

7月の海の日前の日曜日には、三島水軍鶴姫まつりも開かれるとか

あっ そうそう 帰りの楽しみにしていた鶴姫鎧せんべい

程よい歯応えで、昔懐かしいせんべいでした

参道を歩き宮浦港に出て、まずは湾に突き出た御串半島の先にある阿奈波(あなば)神社を目指す

大山祇神社一の鳥居の側に、神社まで徒歩20分の標識がある

わが恋は 三島の浦の うつせ貝

むなしくなりて 名をぞわづらふ

恋人、安成を失った鶴姫の心の傷は大きく、小船で漕ぎ出し、母の形見の鈴を胸に抱き

安成の後を追い海に消えた 今も、このあたりの海を通ると 鈴の音が聞こえて来るという

生まれ育った神社の方を見つめ、帰らぬ恋人を待ち続ける鶴姫

(満潮時には、その姿を約3分の1ほど海中に沈めるそうです)

護岸が整備され、車も走れる程広い参道が神社まで続く

(上写真の鶴姫座像は、このすぐ手前にあります)

14時30分 阿奈波神社

磐長姫命(いわながひめのみこと)を御祭神とする阿奈波神社は、大山祇神社の摂社

大山積神が、いささか不美人ではあるが健康な磐長姫(いわながひめ)と

美人の木花咲耶姫(このはなさくやひめ)の姉妹を天孫瓊々杵尊の妻にと送ったところ

不美人の姉は戻されたとか、それを恥じた磐長姫は身を隠したと伝えられている

此処、御串山に身を隠したのだろうか?

それにしても、何時の世も、男って勝手よねぇ

神社付近で、御串山への登山道を探してみるが見当たらない

宮浦港近くまで引き返し、船だまりで作業していた人に尋ねると、山際の坂道を指し

「其処から上がって尾根に出ると尾根通しに道はあったが、今はどうなっとるか判らんよ」

取り敢えず上がってみると、まずまずの道があり終点にひっそり三角点(65,8m)がありました

 参拝者を待つ鳥居が一際大きく見える

宮浦港に面して建っている大山祇神社一の鳥居は

一本の石造りの鳥居として、材質、大きさともに日本一を誇るそうだ

伊予一の 宮ある島の 大鳥居 海にうつりて いや白く見ゆ

                       (昭和11年 吉井 勇)

15時15分 大鳥居を潜り、役場駐車場に帰って来た

 

今日は、由緒ある大山祇神社の大楠群に圧倒され、鶴姫伝説の悲哀に浸り、

瀬戸内海の多島美を眺めながら鷲ガ頭山、御串山を周回した

しまなみ海道の中央、花崗岩が光る大三島は、神の島であり、ロマンの島でもありました

鶴姫が海に消えて470年、今でも麓から眺めれば、鷲ガ頭山にはあたかも鶴が舞い

耳を澄ませば、御串山近くの海辺から鈴の音が聞こえて来そうです

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