09’サクラ  ”千年桜”

冴え冴えとしていた蒼穹が霞み、光が柔らかくなってくると

山々に灯りが灯ったように桜が咲き始める

待ちに待った「日本の春」がやって来た

桜ばな いのちいっぱいに 咲くからに 

          生命をかけて わが眺めたり  (岡本かの子)

年に数日しかない、桜の精一杯の華やぎを見つめて来た

 

三隅の大平桜 (4月4日)

島根県浜田市三隅町矢原(古地名は大平)

樹齢669年 樹高18m 石見路を代表する桜で、昭和10年に国指定の天然記念物

エドヒガンとヤマザクラの自然交配で生まれ、花と若葉が同時に芽吹く珍しい桜だそうだ

水上勉が、「雪の小山を見るようだ」と絶賛した大平桜は

エッセイ集「在所の桜」にも登場する

見頃は少し過ぎているが、今日、明日は「大平桜まつり」で賑わう

生憎の雨が気にかかるけど、昼前に石見神楽も上演されるそうだ

準備中の方が、「今年の桜は、天辺を鷽に食べられて・・・」と、ウッソー

晴れるといいですね〜

 

 

金谷の城山桜 (じょうざんざくら) (4月4日)

島根県益田市美都町山本 

樹齢580年、樹高15m、根元周り7,15mのエドヒガンで県指定の天然記念物

車がいっぱいいっぱいの狭い橋を渡った所にある小さな社が、駐車場

狭い道を200mくらい登って行くと、応永30年(1423)頃築城の入船山城跡に着く

城跡に立つエドヒガンは、まるで水墨画のような朝の風景の中、薄っすら桜花を浮かび上がらせ

立ち上る冷たい霧に包まれながら威厳に満ち溢れた姿で、金谷集落を見下ろしていた

過疎化が進んだ山あいの地域も、桜の時期には近隣から集い桜祭りが行なわれる

今年は12日だそうだけど・・・葉桜もまた良し

桜木に登って遊んだ、若かりし頃の話に花が咲くことだろう

 

 

安養寺のシダレザクラ (4月4日)

城山桜近くの安養寺境内に咲く枝垂桜

見頃は過ぎているが、あまりに見事な姿に思わず車を停めました

 

 

井川の一本桜 (4月4日)

島根県浜田市三隅町井川

樹齢250年以上 樹高11m 幹回り2,7m のエドヒガン

三隅川の支流・井川川沿いに走って来ると、この地区のシンボルツリーが土手の向こうに立っている

ピンクの羽衣を着て、乙女の様な姿が可愛い〜♪

その昔、井川川対岸側の山の斜面が崩壊し川を堰き止めて一帯が泥沼に

その土砂を取り除いた時に、この一本の桜が根付いていたそうだ

足下には、イチリンソウが雨に濡れていた

 

 

海老谷桜 (4月4日)

島根県浜田市三隅町海老谷

推定樹齢350年 樹高12m ヤマザクラ

海老谷地区の人々の暮らしを見守り続けてきたマザーツリー

平成20年4月1日、突然根っこから倒れ谷に落ちてしまったが

多くの人々の力添えで”甦れ海老谷桜”を合言葉に活動、今年も元気に花を咲かせた

元の大きさの半分以下になっても懸命に咲いている、けなげな桜に感動していると

「海老谷集落若さ創りの会」の代表の方が「愛媛からわざわざ見に来てくれたんかね、有り難う」

ワシが養子に来た時に樹齢350年だったから、もう400年かのう、それは見事な姿で斜面に立っとったんよ

それが、丁度一年前に谷に倒れ落ちてしもて、上の道が出来て10年経ち、段々と息がし難くなったんじゃろう

映画「さくら」の終幕で、壮大な石見神楽のバックに、咲き誇る海老谷桜が出て来るから

機会があったら是非見て下さい」と見送ってくれた

岐阜県白川郷上流に御母衣ダムを建設した際、湖底に沈む樹齢400年の巨桜を移植

多くの人々の心配をよそに桜は見事に根付き、翌年美しい花を咲かせたが

この巨桜の移植者、笹部新太郎をモデルにした、水上勉の小説「櫻守」を、ふと思い出した

3月22日に開花宣言したが、その後冷え込み4月5日にやっと見頃になったそうだ

折角咲いた花も、桜樹を保護するため満開から3日で全部摘み取るとか

がんばれ!海老谷桜

 

 

藤木の桜 (4月5日)

広島県庄原市、庄原市民会館側

樹齢300年のエドヒガン

コンクリートに囲まれた市街地に立つ一本桜

根元には社が祀られている、町の人々と共に生きて来た神宿る大桜

町のど真ん中という事は、ひょっとして商売の神様が祀られているのだろうか?

山里の一本桜良し、街中の一本桜もまた良し

 

 

下領家の江戸彼岸 (4月5日)

広島県甲奴群総領町 

推定樹齢 500年 樹高20m 根回り7,81m 県指定の天然記念物

全国第5位、広島県内第1位の巨樹

総領町の気になるヤマザクラ

どうしているかなと寄って見た

林道沿いの広場に車を止め、5分程歩いて行くと

周りを植林で囲まれたやや小高い丘の上で、静かに立っていた

この桜が咲き出す頃に、田植えが始まるので「田植桜」と呼ばれている

どうしているかと気になり足を延ばしてみたが、やっぱり花には少し早かったようだ

開花は一週間後くらいかな? 枝いっぱいに、咲かせてね〜

 

 

醍醐桜 (4月11日)

岡山県真庭市別所吉念寺

推定樹齢1000年 樹高18m 目通り7,1m 枝張り東西南北20m

昭和47年、県天然記念物に指定されたアズマヒガン(ヒガンザクラの一種)

後醍醐天皇が隠岐遷幸の際に立寄り、賞賛したと伝えられ、「新日本名木100選」にも選ばれている

小高い丘の上に凛として立ち、朝日を浴びて輝く醍醐桜

光を一身に集め周りを華やぎの色で染めていくその姿は、胸に沁みわたる美しさだった

大地からエネルギーを貰い、枝いっぱいに咲き誇る

桜の放つ気が、辺りを荘厳な空気で包んでいく

桜に近寄ってみると、何かもの言いたげな顔で此方を見ている

春がやって来たから咲いているだけなのに、あまり大騒ぎしないで・・・

桜一本に、訪れる人は7〜8万人だとか

こんなに沢山の人が愛でてくれたら、桜冥利に尽きると思うんだけどなぁ

桜を幾重にも取り囲むように並んでいた重装備のカメラマンも、朝焼けショーが終わると次第に少なくなって来た

 

 

岩井畝の大桜 (4月11日)

岡山県真庭市勝山町岩井畝

樹齢750年、目通り5,53m、根元周り6,5m

枝張り東西20,5m、南北23,0mのアズマヒガンザクラ

そんなに離れていないのに、醍醐桜の混雑ぶりとは大違い

生憎、未だ日が差さないが見事な花姿だ

静かで穏やかな気が漂っている

桜花は他の花と違い下向きに咲く、伝統的日本女性のような淑やかさか?

あるいは見る者への自己主張の上手さなのか?

 

 

樽見の大桜 (4月11日)

兵庫県養父市大屋町樽見

樹齢1000年超 樹高13.8m 幹周り6.3mのエドヒガン 国指定の天然記念物

山道を少し登り植林が開けると、斜面に聳え立つ真っ白い千年桜が、目に飛び込んで来た

大屋町史によれば、元禄の頃からすでに名声が高く、文人墨客が訪れ出石藩主も遊覧されたとか

地元では別名「仙桜」とも呼び神の宿る木として大切にされているそうだ

駐車場で案内されていた年配の方が

「今は小さくなったけど、ワシが子供の頃はそれは大きくて立派な桜だったで」と話されていた

もう一人では手足を伸ばせないので櫓を組んで補助しているが、満開の桜花がその櫓から溢れている

咲きこぼれる枝いっぱいの花びら、気品があるわ〜

やっぱり1000年桜 いや、今年は1000円桜かな?

 

 

千鳥別尺のヤマザクラ (4月19日)

広島県庄原市東城町千鳥

樹高約27m 根回り周囲6.7m 県指定の天然記念物

山に囲まれた小さな盆地・標高650mの高地に立つ

日本の原風景を思わせる長閑な田畑が広がる

この山桜は昔から荒神様の御神木として地元の人々から大切に守られて来たそうだ

敷島の 大和心を 人とはば 朝日に匂う 山桜花 

寛政2年(1790)、本居宣長が61歳の時、自画像に入れた賛である

「もののあわれ」を提唱した国学者は、日本の精神は桜、それもヤマザクラに具現されるという歌だ

田植え前の田圃に美しい花姿を写す、葉桜になる頃は山里も忙しくなるのだろう

醍醐桜ほどではなかったが、此処も早朝から沢山のカメラマンが三脚を構えている

その中から、桜の周りにいる人に退けと大声でわめく声が静かな山里に響く

「綺麗ね」と桜に声をかけた人は、果たして居るのだろうか?

少し嫌な気持ちになって、山里を後にした

今新たに、地元では「守る会」を結成して桜の保存対策にあたっているそうだ

 

 

小奴可の要害桜 (4月19日)

広島県庄原市東城町小奴可

樹齢500年 樹高 約17m 根回り6.55mのエドヒガン 県指定の天然記念物

庄原市史跡に指定されている亀山城跡の一角に聳える地域のシンボル

花が咲く頃が苗代を作る目安とされ、「苗代桜」として親しまれている

桜越しに田圃を見れば、耕うん機が忙しそうに動いていた

見る人も なき山里の 桜花 ほかの散りなむ 後ぞ咲かまし (古今和歌集  伊勢)

葉桜を訪ねてくる人は居ないのだろうか、城跡にひっそりと佇んでいる

見頃を過ぎたとはいえ、その堂々とした姿には圧倒される

 

 

森湯谷の江戸彼岸 (4月19日)

広島県庄原市東城町森湯谷

樹齢300年 樹高32m 幹回り5m 県指定の天然記念物

要害桜と同じく、五分葉桜になっているエドヒガン

可愛い姿を田圃に写している

先週は、大勢の人で賑わったのだろう

菫色の空に向って、一人静かに過ぎ行く春を謳歌していた

 

 

尾所の桜 (4月19日)

岡山県津山市阿波尾所地区

樹齢560年 樹高18m 幹回り4,6mのヤマザクラで県指定天然記念物

その昔、峠越えの前に一休みした山伏が、杖代わりに持っていたヤマザクラの枝を

地面に突き刺したところ、そのまま根付いたと伝えられる

「津山加茂郷フルマラソン全国大会」開催中で渋滞、思ったより時間がかかってしまった

桜まつり会場に着くと、町内会の方だろうかリズミカルに餅つきが行なわれ

咲き誇った桜を愛でる大勢の花見客で賑わっていた

久かたの ひかりのどけき 春の日に しづ心なく 花のちるらむ (紀友則)

時折吹く桜色の風に花吹雪が舞い、畦にはタンポポや土筆がいっぱい

田圃に広げられた敷物に上がり、地元のお寿司を食べながら、の〜んびりお花見〜♪

 

北から南から一本の桜に引き寄せられ、醍醐桜への道は大渋滞

湖底に沈む巨桜を移植する

それほどまでの桜の魅力は何なんだろうか?

散り際の潔さ? 希望に溢れた人生の節目の季節に満開する花姿への郷愁?

それとも、長い冬から目覚めた大地のエネルギーを感じるからだろうか?

一本の大桜に向き合い、父のようなたくましさ、母のような優しさを感じながら、自分自身を見つめてみた

いつの日か、大桜の様な花を咲かせる事が出来るのだろうかと・・・

 

桜の季節が終わろうとする頃、今年もアケボノツツジの便りが聞かれ始めた

 

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