2011年09月8日・9日 ”立山・剱”
大展望の3000m稜線を辿り剣山荘へ、が、目前の剱岳は遠かった
この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図50000(地図画像)及び |
8日 室堂(8:20)〜(9:05)一ノ越〜(10:10)雄山(10:35)〜(10:55)大汝山〜(11:30)富士ノ折立 |
(12:10)真砂岳〜(13:15)別山(13:25)〜(13:55)剱御前小屋〜(15:05)剣山荘泊(6時間45分) |
9日 剣山荘(6:00)〜(7:00)剱御前小屋(7:15)〜(8:10)雷鳥沢〜(9:05)室堂 (3時間05分) |
一度は登ってみたいと思っていた「憧れと試練の山・剱岳」
早月尾根は登りに使いたかったけれど、一泊で剱岳・立山三山は到底無理
あれこれ考えた末、室堂〜立山〜剱岳〜馬場島のコースに落ち着いた
1日目 室堂〜雄山〜大汝山〜富士ノ折立〜真砂岳〜別山〜剣山荘泊
2日目 剱岳〜早月尾根〜馬場島 (タクシーで立山駅)
連休はかなり混雑するだろうから、天気予報を見てシーズン谷間の平日山行に
7日22時、三島・川之江ICから高速に乗り、まだ暗いうちに立山ICで降りる
8日5時、立山・黒部アルペンルートの西の玄関・富山地鉄立山駅着
7時始発の立山ケーブルで美女平へ、其処からバスに乗り継ぎ室堂に向かう
称名滝やルート沿いの大杉をバスの車窓から見ながら、8時15分室堂着
空は高く、秋の気配が漂い始めた室堂平
8時20分 冷たい「玉殿の湧水」で喉を潤して出発 振り返ればホテル立山が見送ってくれている
思えば10数年前の海の日、此処に連泊して立山周回を目指したが
グランパが慣れないワインを飲みすぎて二日酔い、頭がガンガン足はヨレヨレ
おまけに雨まで降り出して、一ノ越で早々にギブアップしたのが懐かしい
今日は「室堂晴れ」、ちょっと眠いが気分はルンルン
屏風の様に立ちはだかる立山連山を眺めながら石畳の道を進む
花が終わっても何処か可愛いチングルマが辺り一面に広がっている
写真は真砂岳から別山への大きくうねった稜線 別山への登り返しがちょっとしんどそう
この時期夏の花はほぼ終わっているが、ヤマハハコやヨツバシオガマが僅かに登山道を彩っている
花が少なければ自ずと歩が速くなる 浄土山への道を右に分け稜線鞍部の一ノ越を目指す
祓堂辺りから、心なしか空気が変わり少しヒンヤリして来た
そうそう、あの時は此処から急に咳き込み出し止まらなくなったよねぇ 今日はしっかりお参りしよう
9時05分 傾斜が急になり少し登山らしくなって来たと思ったら一ノ越着、風が吹き抜け寒いくらい
室堂平を見下ろせば室堂山荘、その左に日本最古の山小屋「立山室堂」
室堂の名前は、江戸中期に建てられたこの山小屋に由来する
後ろに水蒸気爆発で出来た火口湖、ミクリガ池とミドリガ池
「ミクリ」とは「御庫裏」のことで、立山の神の台所の水として神聖視されてきたそうだ
注ぎ込みはあるが流れ出す所は無い でも水面の高さは一定という不思議な池らしい
一ノ越からは今までとは打って変わって急坂の岩屑道になる
雄山までに二ノ越、三ノ越、四ノ越があるらしいが何時通り過ぎたか定かでない
高度を上げるにつれ南の展望が開けてくる 右奥に加賀の名峰白山
一ノ越山荘の後ろが浄土山、一際尖がっている山が龍王岳 奥にカールが雄大な薬師岳
その左に黒部五郎岳、鷲羽岳、水晶岳など黒部源流を取り囲む山々が連なっている
あっ! 一番左の一際高くて大きな山塊はひょっとして
ズームしてみれば 北アルプスのランドマーク槍ヶ岳と重鎮・穂高岳
草木を寄せ付けないその黒々とした図体は、いかにも北アルプスの盟主の座に相応しい
誰しも此処から一本の尾根道を辿りあの頂上に立ってみたい、との思いに駆り立てられる
一ノ越から50分弱で一等三角点(2991.6m)がある五ノ越
万葉集に「白雲の千重を押し別け天そそり高き立山・・・」と詠われている立山は
701年(大宝元年)、越中の佐伯有頼(慈興上人)により開山されたと伝えられる
富士山、白山と共に日本三霊山として並び称され、古くから神住まう霊峰として敬われ
登山者以外にも全国各地から多くの信者さんが参拝に訪れる
雄山神社社務所で登拝料(500円)を納め、10時、鳥居を潜り峰本社がある雄山頂上(3003m)
祝詞が始まると途中から抜け出せる雰囲気でもなく神妙にお祓いを受けた後、お神酒まで頂いた
雄山から西の大展望 ほんのり秋めいた室堂平や雷鳥平に遊歩道が浮き上がっている
これから日毎に、草、木、空、雲、風、冷気、そして雷鳥がチームプレイで「立山の秋」を演出していく
大日連山の遥か向こうから「能登はいらんかいね?」と、艶やかな声が聞こえてくる
思わぬ時間がかかってしまったが、10時35分 雄山を後にする
10時55分 大汝休憩所手前を右に駆け上がれば、立山最高点・大汝山(3015m)
東を眺めれば黒部湖に姿を落とす赤沢岳、スバリ岳、それから後立山南端の山・針ノ木岳
針ノ木岳とその東の蓮華岳との間の針ノ木峠は、越中と信州とを結ぶ最短コース
1584年(天正12年)の厳冬期、越中の城主・佐々成政が、わずかな家臣と共に
浜松城の徳川家康に会うため密かに越えた峠として歴史に刻まれている
余談ですが、立山高原バスから見える鍬崎山に成政が富山城落城の折、数百万両埋めたとか
未だに見つかっていないそうですが、ロマンですね〜
大汝山を下り休憩所前のベンチに腰掛け、パンを食べながら小休止後
3000m稜線を富士ノ折立へ向かう
右には黒部川を挟んで鹿島槍、五竜、白馬など後立山の名峰が勢揃い
後立山とは立山の背後にある山を意味し、越中国(富山県)側から見ての呼称だそうだ
11時30分 縦走路から少し外れ、瓦礫を登って行けば富士ノ折立(2999m)
雄山、大汝山、富士ノ折立の三山を「立山」と呼び、立山、浄土山、別山の三山を「立山三山」という
後ろから来ていた若者のグループは、富士ノ折立をパスし先を急いでいる
富士ノ折立から大きく下り、真砂岳(写真中央、馬の背のような台地の右のピーク)へ向かう
鞍部からの登り返しは、砂の山だけにずるずる滑って少々歩き難い
大走りコース分岐、此処からハイマツの尾根を下れば1時間余りで雷鳥平
雷鳥平の向こうに奥大日岳がどっしりと構えている
急坂を頑張り、2860mPに出て、だだっ広い頂稜を北に向かう ガスが出れば不安な所だろう
振り返れば内蔵助カールに今年の干支・兎の雪形、縁起がいいわ〜
12時10分 真砂岳(2861m)、十数人の登山者が寛いでいる
今日最後のピーク別山目指して真砂岳から下って行く 登り返しがかなりきつそう
雷鳥沢の方から時折硫黄の臭いが風に乗ってくる、今も噴煙を上げている地獄谷の火山ガスだ
歩いて来た3000mの稜線、雄山、大汝山、富士ノ折立、真砂岳が背後に聳える
真砂尾根に立つ内蔵助山荘の遥か向こうに富士山、白山も見えるし今日は日本三霊山揃い踏み
グランパがカールを背負って登って来る 「早くおいでよ〜、最高のシチュエーションよ」
別山ピーク直ぐ横にある硯ヶ池は、この時期カラ池になっている
1時15分 北峰との鞍部から眺める巨大な岩の塊・剱岳(2999m)
明日はあの天辺に立つんだと、傲然と聳え立つ北アの俊英を飽かず眺めていると
あれ、剱沢源頭の別山岩場を攀じ登って来ている人が数人、何だか危なっかしそう
別山(2874m)頂上に祀られた祠にお参りしてから、緩やかなアップダウンの稜線を行く
途中、剱沢への道を右に分け、剱御前小屋の建つ別山乗越へ
「クー、クー」と子どもたちを急かしながら、雷鳥の親子が食事中
天敵のイヌワシを恐れ、ガスのかかった日に行動するのであまりお目にかかりたくない鳥だが
人馴れしているのか近付いても逃げようとしない
雷鳥の全国生息数はおよそ3000羽、そのうち半数程が立山一帯に生息しているそうだ
1時55分 剱御前小屋が立つ別山乗越 小休止後、剱御前をトラバースする道を取り剣山荘に向かう
目の前に憧れの岩の殿堂が近付いて来る あの辺りにカニの棲みかがあるのかな?
剱御前から崩落したガレ場を何度か横切るが、とにかく歩き難い 少々雪があるほうが歩き易いかも
「こんなに好い天気、急いで行くのも勿体無い お腹も空いて来たしちょっと休もうや」
そういえば朝から口にしたのはパンだけ、足が重い筈だ
道端で夏花の主役を終えたチングルマが、翁の顎鬚のような綿毛を初秋の風に揺らしている
その足元には、秋到来を歓ぶ濃い紫のミヤマリンドウ(タテヤマリンドウかも?)
2時55分 トラバース道から分かれ剣山荘に向け下りて行く 直進すれば名前が素敵な「くろゆりのコル」
武蔵、平蔵、長次郎、源次郎など時代劇に出て来そうな厳つい名前が飛び交うこの界隈で、ホッとするネーミング
剱岳を写す小さな池(池糖)に下り立つと もう剣山荘は目の前
山荘のテラスで思い思いに寛いでいる登山者の姿が見える
3時05分 ハイマツ林の中に立つ剣山荘 目の前でホシガラスが実を銜えて何処かに飛んで行く
宿泊の手続きを済ませ、気高く聳える別山を眺めながら暫し至福の時間を過ごす
有り難い事に、山荘には珍しくシャワー(利用は5時まで・無料)の設備がある
別山に影御前が落ち出すと、少し肌寒くなる
夕食はトンカツ、ごはんが美味しくてグランパは2杯もおかわり(唖然)
明日のために気合が入っています
ところがTVの天気予報をみると、ガーン! 予報は雨、遥か西を北上する台風の影響がある様だ
「嘘でしょ!」 此処まで来て、早月尾根はおろか剱岳登頂も危ぶまれるなんて
どうしようか?とあれこれ考えても仕方がない とりあえず予報が外れることを期待して床に就く
9日
3時過ぎ、ドドーッという音で目が覚める、外に出てみると大風が吹いている
未だ降ってはいないが、何度か出入りしているうちに雨が混じって来た
少々の雨なら行ける所までとは思っていたが、この風では細い岩の稜線は危険過ぎる
午前中は回復しそうに無いので早々と撤退を決める 我がパーティーのリーダーは決断が早い
もう1日待つという人もいたが、何人かは未だ薄暗い中頂上を目指し山荘を出た 「お気をつけて〜」
6時 風雨の中、剣山荘を出発 昨夜はゆったり休めたので身体は軽いが気分はすこぶる重い
名残惜しく剣山荘を振り返れば、登頂を諦めた人が後ろに続いている
7時 ガスの中に剱御前小屋が見えてきた 泊まりだった登山者が恨めしそうに外を眺めている
温かいコーヒーを頂きほっと一息ついている所へ、ソロの若者
早朝、剱沢キャンプ場から剱岳を目指したけれど、あまりの風の強さに一服剱から引き返して来たそうだ
小屋から外に出れば剱沢、雷鳥沢両方面から風雨が襲ってくる
気が滅入るがずっと留まる訳にもいかないので、雷鳥坂を下り始める
やれやれ、実が赤くなってきたナナカマドの向こうに雷鳥平が見えて来た
8時10分 浄土沢に架かる橋を渡り雷鳥平(2275m) キャンプ場は水浸し
さぁ、此処から室堂平まで、標高差175mの登り返しが待っている
その名の通り、濃い紫のオヤマリンドウが咲き乱れているリンドウ池畔
顔に雨が当らないように足元ばかり見つめていて、花を愛でる余裕も無いのだけれど・・・
折角みくりが池温泉の前を通るのに、この雨では残念ながらパス
前回も浸かりそびれたし、立山を眺めながらのんびり温泉なんて何時の事になるんだろう
9時05分 ガスの向こうにホテル立山が薄っすら見え出した、やれやれ
混み合う室堂ターミナルは、行こうか、戻ろうかと思案中の登山者がいっぱい
臨時バスに乗り、10時前室堂を後にする
立山駅まで戻ると青空も見え出したが、お山は厚い雲の中、未だ降っているんだろうな
初めて目指した憧れの山・剱岳は、残念ながら雨と風の試練の山になりました
剱岳にはカニが沢山棲んでいるそうなので2,3匹土産にと思って勇んでは来たものの
水を得たカニに挟まれでもしたらそれはもう大変、撤退が正解よ また来年来ればいいじゃない
とはいうものの加齢とともに体力が落ちてくるし、特にこの頃バランスが悪くなった
憧れの山はひょっとしたら幻の山になってしまう気がする
まぁそんなに淋しいこと言わないで・・・ わが故郷の名山・石鎚山にもカニがいるじゃない
物足りないって? どこのカニも這い方はタテバイかヨコバイよ
下山予定だった早月尾根登山口・馬場島まで車を走らせる
立山から上市経由馬場島まで50km余り、近道があるかもしれないがやっぱり遠いわぁ
日差しは戻って来たが、早月川奥の尾根にかかった雲は退きそうに無い
駐車場では、下山して来た若者がびしょびしょの靴を脱ぎながら帰り支度の最中
酷い風雨の中、誰もいない頂上をピストンして来たそうだ!思わず拍手をしてしまいました
「試練と憧れ」の碑が建つ登山口周辺を散策した後、馬場島荘でコーヒーを頂いていると
ジャンボタクシーが停まり7,8人の登山者が入って来た、明日剱岳に向うのだろう
日本一厳しい尾根に挑戦する登山者の色々な思いが、この小さな登山口に溢れている