2012年10月27日  ”伯耆大山(キリン峠)”

黄金色のブナ林を抜けて辿り着いたキリン峠は、キリン色そのものでした


ログはイメージ図です ( 承認番号 平18総使 第582号
この地図の作成に当たっては国土地理院長の承認を得、同院発行の数値地図50000(地図画像)、及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用

文殊堂駐車場(7:05)〜(7:40)文殊越〜(8:20)鳥越峠〜(9:00)キリン峠〜(9:25)槍尾根(10:00)
(10:55)木谷別れ〜(11:55)健康の森遊歩道登山口〜鍵掛峠〜(12:30)文殊堂駐車場 (5時間25分)


シーズンに一度は見たい、伯耆大山ブナ林の黄葉

今年はちょっと気になるキリン峠辺りを歩いてみます もう少し足を延ばしてみたいですが

手足の短い私に、 槍尾根中間地点の難所越えは無理 今日はブナ林散策です

それにしても大山好きだねぇ、と言われそう

そうです 大山大好きなんです 大山は男前やから・・・・・



御机から眺める朝焼けの南大山 剣ヶ峰が呼んでいるけど今日は一番右のキリン峠を目指します

辺りを見回してグランパがぽつりと、柿の木越しの醍醐桜の紅葉いいだろうな

今日は昼頃に下りて来る予定なので、帰りに寄ってみようか その時々のフィーリングで行動するいいかげんな夫婦です



文殊堂駐車場には既に5台ほど停まっている 一組が準備中 三ノ沢から槍ヶ峰を目指すそうだ

三ノ沢はパスして環状道路を5分ほど歩き文殊堂登山口 入口には文鳥水20分と烏ヶ山登山禁止の標識がある

まだ日が差し込まない文殊谷をゆっくり登ってゆく 左にはミズナラの大木 沢筋の苔むした露岩の道はツルツル滑って歩き難い



登山口から15分、涸れることもありそうな細い流れの文鳥水を過ぎると、やや傾斜がきつくなる 

背丈以上の笹竹をかき分けながら進むと突然目の前が明るくなり、ポールが立つ文殊越に出る



これなんです この景色だったんです 見たかったのは!  毎年の事なのに見るたびに新鮮です

黄葉真っ盛りのブナ林に朝日が当たり、一面黄金色に燃えている  眩しい!!!

日差しと黄葉の照り返しで気温が一気に上がり、同時にテンションも上がる



炎が槍ヶ峰方向に駆け上がってゆく いえ、正確には稜線から全てを焼き尽くしながら下りて来る

辺りを見ても常緑樹は見当たらない ブナも林床の小さい木々も全てが燃え、山全体が燃えている



文殊越から笹の被さる道を進み、一旦急坂を下った後はほぼ平坦な道が続く

時折テープがあるが、道はまずまずはっきりしている



見上げればそろそろ燃えつきそうな大ブナたち

静まり返った樹海の中で、役目を終えた葉っぱが、カラカラと乾いた音を残して笹の海に消えていく

ちょっと脱線しますが、ブナの黄葉を見ていると何故か新居浜の太鼓祭りを思い出します

金糸銀糸に飾られた太鼓台に血が騒ぐ新居浜人の気性をこんな言葉が語っている

「新居浜人は盆や正月に帰省せんでも、太鼓祭りだけはウイークデイだろうが何だろうが絶対帰省する」

新居浜生まれの私、今年は生憎太鼓祭りに帰省しなかったが、今はさしずめこう言えるかもしれません

「新居浜太鼓祭りを見に帰らない年があっても、大山のブナ林の黄葉を見ない年は無い」と



道が少し登り気味になった所にポールが倒れている

此処が健康の森遊歩道(鍵掛峠登山口)への分岐かな? 帰りはこの道を下る予定です

分岐から、徐々に傾斜がきつくなってくる 急坂途中から眺めると周りはブナだらけ



風が強くなって来たと思ったら、鳥越峠

右の烏ヶ山は、平成12年鳥取県西部地震により登山道が崩落し、危険なため登山禁止だそうだ

ちょっと寒いので、駒鳥小屋方面に少し下り風除けしながら小休止

大山は野鳥の宝庫 コマドリが峠を越え駒鳥小屋目指して飛んでゆく 



綾錦の鳥越谷の向こうに、振袖山(右 1310m)、振子山(左 1452m)

峠から、真っ赤に燃え上がる尾根を左に向かいキリン峠を目指す



此の辺りのブナの黄葉はそろそろ終盤を迎えるところですが

林床は消火器が要りそうな程に燃え、目の中が真っ赤です



岩の側に、何処か見覚えのあるブナが立っている

昨年4月、健康の森遊歩道から鳥越峠を目指した時、山スキーのトレースを辿り登り着いたのは此の辺りかな?

鳥越谷まで、白い急斜面を直滑降で走り降りたのが懐かしい 今日は、赤い斜面を頑張ります



急坂を登りきるとポールの立つ肩に出て、正面に東壁が迫ってくる

鳥越峠で休んでいる時に追いつき、先行された若い方は此処から眺める大山が一番好きだとか

満面の笑みを浮かべながらしきりに「いいなぁ」と、お天気が好ければ剣ヶ峰まで何時もこのコースだそうだ



振子山の右奥に矢筈ヶ山(1358.4m)、甲ヶ山(1338m)が頭を出している

ポールから少し登れば、キリン峠(1405m)



キリン峠に覆いかぶさって来るような剝き出しの岩肌、荒涼たる景色に息を呑む

草付き先の荒々しい稜線の奥に一際鋭い槍ヶ峰が聳えている

ところで、どうして「キリン峠」という名前がついたんだろうか?

大山には弥山から剣ヶ峰の間の主稜線に「ラクダの背」という難所があるが、地形的にその名は頷ける

ここから見れば、右側が切れ落ちた長い稜線がキリンのうなじに見えなくもない

加えて、斜面の草紅葉がキリン色 そんなこんなでキリンの由来になったのかなと、勝手に考えてみました

という事は1405mポイント辺りはキリンの背中、長い首を辿った先の槍ヶ峰はキリンの角ということです

キリンはもしそうだとしても、「峠」は?地形的にどうみても峠とは言い難い

昔は、キリン沢に下りる道が有ったのかな?と思い沢を覗き込んでみるが、それは考えられない

まぁ今日の目的地は踏んだので、時間もあるしもう少し上まで頑張ってみようか



潅木帯を抜けると急斜面の草場にお花畑の名残が有る 右は吸い込まれそうなキリン沢 

高度を上げるにつれて山相は一変、ブナ林広がる癒しの山から崩落進む厳しい山に変わって来た



草地が途切れた所が今日の私の最高地点 グランパはもう少し先まで行ってみると細尾根を進む 

先程の若者が、槍尾根最難関をみるみるうちに抜けてゆく

ははぁーんここからが槍尾根核心部か 白いポールまでは、100m位だろうか? 



歩いてきた稜線の奥にはすぐそれと判る烏ヶ山(1448m)、その左後ろにはぼんやりと蒜山

グランパが下りて来て、「上りはなんとかなりそうだけど、下りは無理や」

 あわよくば、槍ヶ峰までと考えていたのかも・・・どうなんでしょう?

 (後で判ったが、グランパのザックにはシュリンゲが2本、クワバラ、クワバラでした)

NHK「純と愛」の愛(いとし)君みたいに相手の気持ちが読めたら面白いんだけど でも読まれる方も困るわよねぇ



大展望を楽しみながら早いお昼にし、暫しの〜んびり 少し引返すと薄い踏み跡が右に延びている

さぁ、草付きから潅木帯を抜けブナ帯まで沢筋を一気に直下降です

 転げ落ちそうな斜度だけど、文殊越と健康の森遊歩道分岐の間の文殊越寄りに出るのでかなり近道



沢の左岸に付けられた薄い道を下って行く 沢の右岸に渡ることは無い ところでこの沢は名前があるのかな? 

大山南面は西から一、二、三と名前がついているのでいっその事、四ノ沢くらいにしたらどうでしょう?

薄い道も段々判り難くなり、途中から沢床を歩く 所々にテープがある

沢が狭まり、ブナ林の中の掘割のような沢床を歩く 沢がはっきりしなくなくなると、今朝歩いた道は近い



槍尾根から下り始めて45分程で今朝歩いた登山道に合流(合流点には印は無かったと思う)

道を右へ取れば文殊越は直ぐだけど、時間もあり、健康の森遊歩道も歩いてみたいので

鳥越峠方向(左)へ登り返し、分岐を目指します



遠回りになるけれど、こんな楽しい回り道は嬉しい

それにしても今日は天気も好く黄葉見頃なのに、歩き始めて逢ったのは単独行の男性二人だけ

今頃夏山登山道は、登山者で数珠つなぎになっているんだろう



何時も感じることだけど、大山のブナはすらーっと伸びて皆スタイルが良い 

四国のように根本近くから四方に枝分れしているのは見当たらない

考えてみれば此処は豪雪地帯 雪に負けないように成長のエネルギーは横に使わず先ず上に 

なるほどそれも一理ある 妙に自分に納得してしまいました

登山道合流から10分程歩けば、登りで確認したポール  「ここは木谷分レ」と書かれている

此処を右折すると、遊歩道とは言っても結構荒れ気味



木々や笹が茂り道を見失いかけたので沢に下りたら、左岸に道が続いていた

この辺りは未だ黄緑色が目立つが、この時期高度変化に伴う色の移ろいを見るのも楽しい



新潟県十日町市松之山松口地区に、「美人林」というブナ林があるそうです

樹齢約80年ほどのブナが一面に生い茂り、その立ち姿があまりにも美しいから「美人林」と呼ばれるようになったとか

それじゃ此処は「イケメン林」かな  ちょっとなよなよとした姿が現代の若者を彷彿させる



さっさと通り過ぎるのも勿体ないと、コーヒータイム

腰掛けてイケメンブナに見惚れている所に、背負子姿のキノコ採りの方が下りて来られた

「たくさん採れましたか〜」 ニコニコしながら、採って来たばかりのムキタケ(左)、ナメコ(右)を出し

「こんな風に生えとんよ〜」と、倒木にびっしり生えたナメコの写真を見せてくれた

本当に綺麗!  これぞ、究極のブナ林の楽しみ方です



癒しの空間から立ち去り難い思いでゆっくり歩いて、健康の森遊歩道登山口

先程の方が「文殊堂まで乗って行きませんか」と声を掛けてくれましたが

紅葉を楽しみながら歩きますと、深謝してお別れした

鍵掛峠の展望所は大入り満員、三脚を構えた方から携帯の方まで思い思いにシャッターをきっている



三ノ沢から剣ヶ峰、槍ヶ峰を見上げ、「また今度いくからネ〜」



12時30分 間もなく黄葉見頃を迎えるブナの街路樹に囲まれた文殊堂横の駐車地点に帰って来た


頂稜部の厳しさが「大山らしさ」だろうけれども、大山はそれだけじゃない

火照るブナの黄葉で埋め尽くされた中腹も圧巻でした

新緑や深緑のブナ林良し、燃えるブナ林もまた良し ブナ林は何時も心を優しくしてくれる

今日は特定のピークに立たず、殆どブナ林歩きの5時間半  そんな意味では、男前というより癒し系の大山でした



帰路、北房ICで高速を下り吉念寺集落へ向かう お目当ては勿論紅葉した千年桜

柿の実越しの大桜なんかいいなぁと、ルンルン気分で坂を登って行く 時間は4時を回り、日が陰って来た

冷たい風が吹き抜ける中、久し振りに会いました、集落を見下ろすように小高い丘に聳える醍醐桜

でも天辺に僅かに葉っぱを残して、もうすでに冬支度

それでも何処かに柿の木が無いかと探してみると、一本だけありました

庭先で蓆を敷いて小豆叩きをしている年配のご夫婦にお願いして、柿の木の下で写真を撮らせて頂く

「去年はようけ生ったんじゃけど、今年は裏年でどの木もちっとも生らんかったんじゃ

木の下は茂っとるから気ぃつけて下りなさいや そこから下りたらええきに ええ写真撮りなされや」と

仕事の手を止めて親切に応対してくれた

青空の下で鈴なりの柿の木の向こうに紅葉した千年桜・・・イメージとは大分違うがこれもまた良し

それより何十年もこの地で生活されてきた御夫婦の言葉と、その仕草一つ一つに

どっしりと構えている大桜にも似た年輪の重みを感じました


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