2012年12月20日  ”奥白髪山”

雪化粧した嶺北の重鎮・ヒノキとシャクナゲの山を歩く


GPSトラックログ (カシミールソフト使用)
この地図の作成に当たっては国土地理院長の承認を得、同院発行の数値地図50000(地図画像)、及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用
承認番号 平18総使 第582号


登山口(10:35)〜(11:15)帰全山コース合流点〜(11:50)頂上〜大ブナ往復〜(13:10)頂上(13:30)〜(14:40)登山口
                                                                 (4時間05分)

四国のほぼ中央高知県本山町にある奥白髪山(1469.6m)は、四国山地の主稜線から分れ、

吉野川からそそり立つその秀麗な姿は、何処からでも特定でき、嶺北のシンボル的な山となっている

山のイメージは、頂上から南面の展望こそ良いが、道中はシャクナゲとヒノキに囲まれたうっと暗い山

あっ、そうそう それからもう一つ 山歩きで初めて蛇を見た山として鮮明に記憶に残っている

そんな奥白髪山にブナ? ちょっと結びつきませんが・・・

北の奥工石山(1515.9m)へ続く稜線には素晴らしいブナの森が拡がり、三抱えほどの大ブナが居るらしい

あわただしい年の瀬ですが、大ブナに会いたいと白い稜線を歩いて来ました
 


高知道馬立P辺りから眺める四国山地の主稜線は真っ白 登山口までの林道が少し不安になってくる

今日は、北側の林道奥白髪線の登山口から頂上を踏み、竜王峠へと周回する予定です

ところが、林道に入った途端「今日から2月28日まで舗装工事のため全面通行止」 ガ、ガ、ガ〜ン

天気も好いし、今年の事は今年のうちにということで 登山口を東側の行川コース蛇野(はめがの)に急遽変更

名前がちょっと気になるが今日は大丈夫だろう そういえば来年は巳年 干支先取りで縁起が良い

未舗装の林道行川線に入って程なく、秘湯ムードたっぷりだった奥白髪温泉の建物が今ではひっそりと立っている

道路の真ん中に転がっている尖った石や蜂蜜箱を除けながら、相変わらずのガタガタ道を走ってゆく

おるいの滝を過ぎ、樽の滝辺りから雪道になってきた

終点のゲート横が行川コースの登山口 Uターンも出来ず、200mくらいバックして広場に停める

登山口には標識や説明板が沢山立ち賑やかです

「林木遺伝資源保存林、白髪山天然ヒノキ」の説明板がある よく分からないが、学術的に貴重な山なんだろう

頂上まで1500mと、側に2kmの標識もある 500mの差は大きいけど・・・どっちなんよ?

登山口が標高1040m位、標高差約430m まぁ一歩一歩足を前に出せば1時間ちょっとで着きそうです

頂上方面は未だガスがかかっているけれど、そのうち退く予定です 大ブナ目指し新雪を踏みしめて木段を登ってゆく

 

登山口から25分ほどで「頂上まで870m」の表示 この上辺りから落葉低木林からヒノキ林へと植生が変わって来た

土の感触が全然無いゴツゴツした岩道に雪が乗り、歩き難い

こんな所に根を下ろしたヒノキの生命力に感心しきり おそらくブナにはこの根性は無いだろう

こんなにも過酷な環境で年輪を重ねるチカラを持っているからこそ 

1300年も前の世界最古の木造建築・法隆寺を支えることが出来たんだと

法隆寺宮大工の棟梁・西岡常一さんが「木に学べ」で言っていたことを思い出した

「二千年以上のヒノキが残っている台湾の山は厳しい条件のところです。昭和60年2月、

薬師寺用の林を見に行ってきましたけど、あそこのヒノキの植わっている山には土壌なんてありませんのや。

岩ばっかりです。粘板岩という粘土を押し固めたようなもんです。それが風化して割れてるんです。

その間、間に水がしみ込んでいる。ほんのわずかな水をめざしてヒノキの根が岩の間に入ってくるんです。

こういう条件だからこそ、二千年もの木が育つんですな。人間も同じですな。

甘やかして欲しいものがすぐ手に入ったんじゃ、いいもんにはなりませんな。木いうのは人間に似てます。」

 

周りの高木はヒノキばかり 見上げればどれもすらっと天に向かって伸びているが足下はそれぞれ個性的

土を求めて岩の間に大きな根を延ばし、背伸びしたような「根上がりヒノキ」の恰好をしています

白髪檜は長宗我部の時代に豊臣太閤に、江戸時代には幕府への貢献用材とされたそうだ

こんなに足場の悪い所での伐採、搬出は大変だっただろうと思いながら、歩くのさえ苦労する登山道を行く

登山口から40分で左からの帰全山コース合流点、此処から頂上までは500m

行川登山口へ1070mという事は、やっぱり全行程1500mでした

 

合流点からは傾斜が厳しくなり、雪も多くなってくる 高木が少なくなり、見上げれば空が広くなって来た

登山道正面に大岩の塊が現れた 此処は右だったかな?後からの指示通り進むと行き止まり 

十数年前の記憶は当てになりません 大岩を跨いで、引返すのも苦労しました 

 

左に回り込み、大岩(これが天狗岩かな?)の下を進むと程なく頂上分れ(赤や緑のテープが揺れている)

左へ曲がればすぐ奥白髪山(標高1470m)頂上

予定通りガスも切れ始め、南側の大展望が広がって来ている

ゆっくりしたいところだけど、今日の目的地はもう少し先、お目当ての大ブナを求めて先を急ぐ

 

引返し、左に下りた所が分岐点 真っ直ぐ行けば林道奥白髪線の冬の瀬登山口

右から(縦走路 竜王峠、林道方面)大ブナの呼ぶ声が聞こえて来る

新雪の道は少々判りにくいけど、尾根を外さないよう所々にあるテープに導かれ縦走路を進んでゆく

相変わらずヒノキ林が続いているが、それにしてもシャクナゲの多いこと! 全て花を付けたら見事だろうな

どれどれ花芽は? あまり付いてないなぁ

 

500mほど下りて来た この辺りで常緑の森から落葉広葉樹の森へと、林相は一変する

貴重なヒノキの山といっても、冬の山歩きはやっぱり明るい落葉樹の道だわよねぇ

先程までは厚手の手袋をしてても冷たかったけれど、こころなしか指先が温もってくるのが感じられる

さぁ此処からがお目当てのブナの稜線です 先ずはブナの森のゲートを潜ります(たぶんグランパは無理)

このブナ何かに似てると思ったら

 たしかマリリンモンローが左右のヒールの高さを変えて、こんな足の運びをしていたように思う

「モンロー(ウォーク)ブナ」とでも名付けようと思いますが、どうでしょう? (ちょっと苦しいかな?)



ゲートを潜って程なく、登山道沿いでスタイル抜群のブナが迎えてくれました

肌も艶やかで勢いがあります 早速、ウエストを測らせて貰っていると、奥からしわがれた声が聞こえてくる

ヌタ場に足を踏み込みぐじゅぐじゅになりながら側に立ち、思わず二人で目を合わせニンマリ

肌は黒ずみ少し疲れた様子で立っているが 道沿いのブナより一回りデカイ!

白い森の中で恋人に巡り合えたかのような高揚感がこみあげてくる

人の顔には生き様が現れると言われるが、ブナの姿形もそれぞれ個性的でその木だけの顔を持っている

今度はどんな表情を持った大ブナに出会えるのか? これからも恋人探しの山旅が大きなテーマです

周りにはブナの森が拡がり、私も測ってと声が聞こえてくるけれど、新雪の乗ったスズタケを分け入る勇気は無い

ブナの稜線は竜王峠〜奥工石山へと続いているが今日は此処まで 白髪山向けて引き返す



赤茶けた蛇紋岩と白骨樹が目立つ頂上で、暫し至福の時間を過ごす

西には一際白い二ノ森、その横でどっしりと構える石鎚山をズーム 一足お先にメリークリスマス

登山口にあった説明版に拠ると

「白髪山の名は、「白く光る岩」に由来しています 以前は白い岩を意味する白峨の文字を使っていましたが

今の奥白髪に猿田彦神(白髪の老翁)を白峨の山霊として奉ってから 「白峨」を「白髪」に改めたといわれています」

今日は、岩やヒノキが雪で光り、「白峨」も「白髪」もいづれの名もこの山に相応しい



綺麗〜♪工石山の向こうに雄大な太平洋がキラキラと輝いている

眼も心もお腹も満たされ、満足感いっぱいで下りてゆく

天狗岩をよくよく見れば、何処かしらキングコングの横顔に似ている

ということは、コングの掌に乗って空中散歩?



掌から見下ろすと、急斜面の根元にマイカーと登山口が見える

ヒノキ林の急坂を慎重に下りていると、吉野川を切り裂く地鳴りの様な音が近付いて来た

少し視界の開けた所で南を見れば、パイロットの顔が見える程近くを米軍岩国基地のFA18戦闘機(たぶん)が

こちらに手を振りながら(それは無いが)消えていった 雪が多い所だったら絶対雪崩れるよ

白髪山は岩場の磁気の影響でコンパスが狂うことがあるそうだけど、機器が狂って墜落でもしたらどうするの!

毎日こんな爆音の下で生活されている沖縄の方々のことを想います



頂上から登山口まで1時間10分、登りも下りもそんなに時間が変わらない

日に輝く奥白髪山を見上げながら駐車地点まで林道を歩く

帰路、R439より光る吉野川の向こうを眺めれば、嶺北の山々が連なり

奥白髪山(右端)は嶺北の重鎮の名に相応しいどっしりとした山容で聳えている

とすれば、左端の可愛い三角ピークが嶺北の俊英?・きびす山かな〜


登山口変更のハプニングで出発が遅れたけれど、冬晴れの下、期待以上の大ブナに出会え大満足

四国は山深い所、未だ踏み入れたことのない山域でメジャーを待っている大ブナが居るかもしれない

木は人の声を聞くと元気になるそうです 元気を無くし始めた大ブナたちに早く声をかけてやらなくっちゃ

勝手な思い込みですが、そんな事を考えると山歩きが益々楽しくなってくる

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