雪深いブナの森で、6mを超えるスタイリッシュな「神のブナ」がオーラを放っている
昨秋来、そんな情景を探し求めて森を歩いてみるが、未だに巡り合えない 6m超のハードルが高いのか?
神に会うのはそんなやさしいもんじゃないよと、どこからか声が聞こえて来る
そろそろここらで一旦頭の中をフォーマットして、のんびり雪山歩きでもと思っていたところ
「明日はシラサ峠の大ブナじゃ 6m超えるらしいぞ」 グランパの頭の中はブナしか無いようです
そんなにブナが好きなんなら、山から2,3本貰ってきて庭にブナの森を造ったら? と思いつつも
まぁ 峠から伊吹山のピークも近いし、天気も好さそうなので行ってみよう
あわよくば「神のブナ」との出会いに期待して、再度、森に入り大ブナを追っかけることになりました
(ブナのサイズは実測値です 測り方で多少の誤差が出ると思います)
シラサ峠シラサ峠(1406m)は、予土(寺川と西之川)を結んでいた往還の国境にある峠です
寺川から峠に至る道は登山道として今も残っているが 峠から西之川へは昔の面影は無い
奥深い山岳部にカタカナ表示の地名は奇異な感じがするけれど
峠一帯が、枯れて白くなった笹に覆われていたので白笹→シラサと呼ばれたそうだ
かつての難所も、今では瓶ヶ森林道が走り容易に峠に立つことが出来る
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(平成25年2月3日)
一番積雪量が多い2月なのに、日当たりが良い峠付近の路面は一部現れている
20〜30cm積もった林道をよさこい峠方面へ5分も歩くと、右下に大きなブナが見えて来た
無雪期は笹に覆われ、ほんの僅かな距離だけど近付き難いシラサ峠の巨大ブナ
以前は、四方に立派な大枝を広げて、神々しい姿で立っていたそうだが
数年前、春先の湿った大雪で数本の枝が折れ、今は無残な姿 石鎚山も気遣いながらこちらを眺めている
根元回りを測ってみると、
6m10cm サイズに関しては早速お目当ての「神のブナ」に対面です
かなりお年を召しているようだが、辺りを見回すと後継ぎの姿が見えないのが気にかかる
笹型林床のブナ林では笹との競争でかなり世代交代に苦戦しているようだ
笹の一斉開花と結実後に起こる枯死は,60年あるいは120年に1度にといわれており
笹がもとの状態に回復するまでの20年程度の間に、ブナはせっせと子育てをするとか
神のブナさ〜ん 笹の枯死は次は何時の事になるやら 待ってはおれません
あなたの作る貴重なギャップを確実に子孫のものにするために
腐朽し地に還り始めた枝の上に種子を落し、早く可愛い蝶の様な双葉を見せてくださ〜い
烏ヶ山ブナのふるさと伯耆大山・宝珠の巨大ブナを尋ねた時、大山山塊・烏ヶ山(1448m)に
「ブナ翁」とも呼称されるそれはそれは神のような巨大なブナが棲んでいると教えていただいた
積雪期しか入れないとはいうものの、そのエリアの雪量は四国の比ではない
時機を伺い、大胆にも厳冬期の烏ヶ山山麓に入ってみた
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(平成25年2月10日)
雪は程よく締まっていて、心配していた沈み込みは少ない
ブナ林の中を緩やかに高度を上げ、谷が狭まって来たころ 前方に黒い巨体が見えてきた
瘤ができ、蔦を絡めたその立ち姿は、数々の戦を勝ち抜き勲章をいっぱい身に纏った戦士のようだ
四国の八方ブナが「柔」なら、「剛」という言葉がぴったり、
5m65cmの巨大ブナです
大地が沈み込みそうなくらい重量感のある図体から、生命力の根源である「気」が伝わってくる
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(平成25年2月10日) (平成25年3月30日)
手前にある
5m20cmの巨大ブナ(左写真)も、「ブナ翁」の前では小さく見える
後日、烏ヶ山の頂上から大山の雄姿を見たいと、再びブナ翁を尋ねてみた
前回遠目に見た双子ブナ(両方共4mを少し超えます)も仲良く並んでいます
深い雪に覆われていたブナ林も、明るい日差しを浴び根開きが始まっている
ブナの発芽にとって冷えと乾燥は敵だとか 冷えとお肌の乾燥に悩む女性にとっては余計に親近感が湧いて来ます
厚く積もった雪の下は気温が零度以下にならないので、種子が凍らず、乾燥も防いでくれる
時には枝をも千切ってしまう雪が、ブナの芽生えにとって断熱と加湿の両方の効果をもたらすのです
同日訪れた大山二ノ沢の林道沿いのドングリが赤い根を伸ばしていたから
この雪の下ではもうブナ翁の種子が発芽の準備をし、根も出し始めているかもしれない
静寂の雪原の下で、小さな命のドラマが始まっている
寒 峰 大分県の、「一村一品」という「ローカルにしてグローバル」な地域振興運動は
各市町村がそれぞれひとつの特産品を育てることにより、地域の活性化を図ることを目指すものです
何故いきなり、山とは関係ない「一村一品運動」か? ということですが
「この山にはこの花」とアピール出来ることが、名山のひとつの要素じゃないかと思うんです
名付けて「一山一花」 四国でその代表格といえば寒峰(1604.6m)の福寿草
高山の沢筋の雪渓が細くなり、登山者もそろそろ花でも見たいと思い始める頃に合わせて
春を告げる黄色い天使が顔を出す なんとも心憎いほどの演出です
春山の魁・寒峰を、勿論福寿草にも会いたいなと思いながら、大ブナロマンを求めて歩いてみた
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(平成25年3月3日)
人工林や雑木林を抜け、 大ブナの森に足を踏み入れると、心なしか空気が入れ替わった感じがする
登山道脇で、早速
4m50cmの寒峰の主ともいえる大ブナが迎えてくれる
ところで、寒峰は平家ゆかりの伝説が語り継がれる山です
壇ノ浦の合戦で入水されたはずの安徳天皇を奉じた平家随一の猛将・平国盛(教経)らは、
寒峰を越え祖谷に落ち延びた 登山口がある栗枝渡集落は、安徳天皇の崩御地と伝えられている
この大ブナは、ぼろぼろになった甲冑を纏って北に睨みをきかす国盛ら平家武将のようにみえる
ここだけの話とお断りして この大ブナを「国盛ブナ」と呼ばせてもらいます
「平家伝説の語り部としていつまでも生き抜いてね」 そんな言葉が思わず口から出た
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(平成25年3月3日)
「国盛ブナ」から、窪地を挟んだ稜線に立つ
4m46cmの大ブナ
登山道沿いの大ブナが国盛なら こちらは壇ノ浦の合戦で碇を担ぎ入水したといわれる知盛か
幹に絡んだ蔦があたかも碇の鎖のように見える
周りには霧氷で着飾った大きなブナが何本か見える それぞれに平家ゆかりの名前を付けたいが
平家の武将は、家盛、経盛、教盛、重盛・・・・とにかくややこしい
ところで棟梁・入道は何処に? 思い入れの深い福原だとすれば、方角的には西寒峰の西斜面
頂上から遠目に見れば素敵なブナの森が広がっている
あの森の中できっと、「ブナにあらずんば、木にあらず」なんて奢っているんだろう
次回はぜひ清盛ブナを探してあて、都落ちや鎌倉のことなど積もる話をしてみよう
成 就 白山以西で一番高い石鎚山は、古来「神さんの山」として諸人に崇められて来た
山全体がご神体の石鎚山には、神の山に相応しい大ブナがきっと棲んでいると、勝手に思い込み
山頂に至る4本のルートの内、3本が閉ざされる積雪期 唯一入山可能な成就社コースを歩いてみた
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(平成25年2月24日)
成就社への参道から分かれ、積雪期の特権を生かしてブナの森に入る
ブナの森は、上層、中層、下層、地表草木層(林床)の4つの階層から成っている
雪解けとともに中下層の樹木や笹が立ち上がり、散策が困難になってくる
神さんのような大ブナはいないかなと、わくわくしながら四周を見回すが4m超すら出会わない
20本ほど測ってみたが、いつも急ぎ足で下る八丁坂沿いの
3m90cmが一番大きい
うぅーん こんな筈では 6m級は無理としても、せめて5m級位は期待していたのに
生育条件か或は、山全体が神の石鎚山には他の神は相容れないのか
といっても、今日は大きな石鎚山のほんの一部、成就社界隈を歩いただけ
東西南北広いエリアの何処かに「神のブナ」が棲んでいると信じ、巡り合える日を待つしかないか
そうだ 成就社にお願いしてみよう 石鎚神社の祭神・石鎚毘古神は諸願成就の神
でも、いくら諸願成就といっても、こんな願い事聞いてくれるかなぁ?
落合峠 四国は山国です 狭い国土に南北を隔絶するように2000m近い山脈が東西に走っている
しかもその山々を縫って複雑に流れる大河が作り出す急峻な谷が、古来人々の移動を困難なものにして来た
平野部から、点在する川沿いの集落への移動はおのずと峠越えの道となる
平家落人伝説が語り継がれる秘境・祖谷に至る峠道に大ブナがあるのを思い出し尋ねてみた
三加茂から県道に入り、斜面に張り付くように構えた民家群を眺めながら高度を上げてゆくと桟敷峠に着く
ここはすでに標高1021m 北には大展望が広がっている
吉野川や阿讃の山々を桟敷に陣取りゆっくり眺めたいところだけど、今日の目的地はもう少し先
落合峠までまだ500m高度を上げなければいけない
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(平成25年3月9日)
深淵の最終民家を過ぎると路面に凍結箇所が出てきた
道端に車を置いて車道を歩き始める 左の深淵川は、雪解け水を集めて勢いよく流れている
深淵川に架かる橋の手前で 烏帽子山の道標に従い山道に入る
直ぐ、烏帽子山への道と分かれて左の鉄橋を渡り、登山口から50分ほどで大ブナが見えてきた
「峠はもうすぐ ここからは坂もきつくなるからちょっと休みなされ」
この道は今では静かな登山道だが、その昔多くの人や物資が行き交ったのだろう
重い荷物を背負って峠を越える人たちに、優しく労いの言葉をかけているようにみえる
あっそうそう 今日は懐古に浸っていてはいけません することはしとかなくっちゃ
メジャーを回すと
4m53cm 目通り、立ち姿、広がり、品位どれをとっても一流の大ブナです
ブナは芽吹き後間もなく花を咲かせる 勿論緑色の匂いが漂うのはもう少し先だけど
この大ブナには花が無くても華がある
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(平成25年3月9日)
登山道を逸れ左斜面を駆け上がれば、烏帽子山を従え悠然と構える
4m48cmの大ブナ
転げ落ちそうな急斜面に大きな根を下ろし頑張る姿から、生きることへの執念が感じられる
落合峠(1520m)に出て南を見れば、表銀座と呼ばれる剣山系の天狗塚や三嶺がたおやかなラインを引いている
峠は道の頂です ここから先はもう登りは無い
峠は道に限らず歴史、経済、あるいは人生など様々な事象の転換点の表現に引用される言葉でもあります
大概は振り返ってみて「あのころが峠だったんだ」と気付くものだけど・・・
体力、五官、脳細胞の数が明らかに峠を越えたと感じる今 ロマンを求める心だけはずっと上り坂を維持したい
峠道はここから祖谷川沿いの落合集落に向け下ってゆくが、道が生きているのかどうか判らない
復路は車道歩き 車道から駆け上がると ちょっとメタボ気味の
4m48cmの大ブナが迎えてくれました
地図を広げると、「落合」とか「出合」とかいう地名をよく目にする
地形的に人や物資が出会い集まる所です 私にとって落合峠はブナと出会う嬉しい場所になりました
片 川 (矢筈山北面) 剣山系の北に位置する祖谷山系は「裏銀座」にたとえられ、その渋さが岳人を魅了するそうです
山系の主峰矢筈山(1848.5m)北面に大ブナがあるというので尋ねてみた
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(平成25年3月16日)
藪尾根を頑張り、凍った沢を渡り、これまでの登山とは一味異なる歩きで登山口から3時間
木々の梢に春が舞い降り始めた林の前方に、いかにも「神のブナ」が棲んでいそうな森が見えてきた
これが緩斜面の真ん中に立つ「片川の巨大ブナ」と呼ばれる大ブナです
大地にしっかり根を張り、片川流域の日差しは全て私のものよとでも言いたげに
目通り
4.95cmもある幹に支えられ、四周に大きく枝を広げている
3m程の高さから分かれた大枝は、幹から供給される水分では足りず
それぞれが水を求めて道管を伸ばし、思い思いに地中に根を張ったようにも見える
縦縞模様の大ブナの幹からは、目通り以上の貫録とともに逞しさが伝わってくる
大ブナに出会え、感激に浸ったのも束の間、その後はサバイバルの時間が待っていた
急坂、凍結、藪の三点セット ロマンどころではありません
腕、足腰の疲れが取れるのに数日かかりました
昨秋から感動の出会いを求めてブナの森を歩いてみた
大ブナに出会った時の、ピークを踏んだ以上の高揚感が未だに忘れられません
森の王者としての気高き姿、奥深くで逞しく生きている命 そして避けることが出来ない生滅流転
今も一本一本の表情が、鮮烈に甦る
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(平成22年5月29日 雨飾山)
ところで、今まで一本の巨木に拘わり過ぎて、森を見ていなかったのではないか?
ブナの森には大ブナを頂点にして様々な動植物の生の営みがある
どんなドラマも主役だけでは成り立たない 脇役がいてこそのドラマです
これからは視点を変えて、ブナ自身の発芽、成長そして土に還るまで
また、林床の花、きのこ、小動物、鳥等、ブナの森を四次元で観察してみよう
きっと多くの新しい発見がある筈です
もちろん観察の途中で、神のブナに出会えたら嬉しいですが・・・・
今度はどんなドラマに仕立てようか ブナの森歩きの終着駅はまだ遥かです
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