” 山に想うV ”


今年の夏も暑かったですね

それでもお盆を過ぎたくらいから最高気温も下がり、少し凌ぎ易くなりました

8月終わり頃からはすっきりしない天気が続き、9月に入ってもお日様は雲隠れ

夏花が終わり、かといって紅葉にはまだ早い、9月は山にアクセントがありません

こんな時は、軽い山とグルメ(たぶんうどんです)で体力保持か、山への想いに耽るのが一番です


「そこに山があるから」



2010年10月11日  石鎚山 

「なぜ、あなたはエベレストに登りたいのか?」の問いに、

イギリスの登山家 ジョージ・マロリーが、「そこにエベレストがあるから」と答えた逸話は有名だ

日本語では、しばしば「そこに山があるから」と誤訳されている

マロリーの意図は、誰も登頂していない世界最高峰を目指すことであり

山一般について述べたわけではない  (ウィキペディア)

速さに挑戦するウサイン・ボルトに、「なぜ、あなたは走るのか?」の如き自明の質問だったかもしれません

ハイカーからプロのクライマーまで、「なぜ山に?」の問いに対して答えは様々だと思います

動物や植物への関心、百名山や特定ピークへの登頂回数などのこだわり、雪と岩の誘い 山岳写真の撮影

あるいは、健康維持や体力増進 ロマンがあるからと気取っている人もいます

10月も上旬になると、西日本一早い(と思っている)紅葉前線が石鎚山に下りて来る

赤や黄色のツツジやカエデで着飾ったかぶき者の雄姿は今やメジャー級、全国から登山者が集まります

ちょっと油断すると押し出されそうな狭い弥山頂上から天狗岳を見れば、

「なぜ山に?」が、愚かな質問であることに気付くのに時間はかからないでしょう


裾野



伯耆大山    2011年5月15日                   2015年8月8日    

日経新聞(2014年6月10日)に拠れば、

「日本の登山人口860万人、東日本大震災後にレジャー人口が全体的に減った影響で、

ピークだった09年(1230万人)には及ばないが、回復の兆しが出てきた

2016年から8月11日が国民の祝日「山の日」となり、追い風となりそうだ」

登山人口とは、年1回以上登山した人の数で、

60代以上が4割を占め、30〜50歳代では男女とも10パーセントに満たないそうです

子育てに忙しい世代の比率が低いのは当然だと思いますが、

石鎚山や剣山に登ると、案外ファミリーや若者のグループが多いことに驚く

広大な裾野を日本海まで落とす伯耆大山に、花の見ごろを少し過ぎた8月上旬登ってみた

ご来光登山だったという家族連れが早々と下りて来る 子どもたちに、今日の日の出は一生記憶に残ることでしょう

下山時も、多くの若者や集団登山の子どもたちにすれ違う 声をかけると、気持ちの良い挨拶が返ってくる

今日の伯耆大山の登山者年齢構成はピラミッド形、どんな社会も裾野が広いと安泰です

皆さん、これからずーと日本の登山文化を支えて下さいね


魔の山



2012年10月8日  谷川岳

その昔、山に関わる報道で一番目や耳にしたのは、たぶん谷川岳です

その頃は全く登山に興味が無かったが、

谷川岳という特別な響きや一ノ倉沢の名前は未だに記憶に残っている

谷川岳は、上越国境にあり、標高は2000mに満たないが、遭難事故死者数世界一という悲しい記録を持っている

そんな山に素人ハイカーがはたして登れるのか? 「日本百名山」に入っている位だから勿論一般ルートがあるでしょう

土合口駅からロープウェイで天神平駅へ 天神尾根に乗ると子どももたくさん混じった登山者の長い列が続いている 

魔の山の雰囲気を感じることも無く、2時間20分ほどですんなりトマノ耳着

達成感というよりも、想像さえしなかったあの「谷川岳」に今立っている事が不思議でたまらない そんな感覚でした

双耳峰のもう一つのピーク・オキノ耳まで行って、一ノ倉沢を覗き込んでみたかったが生憎真っ白けなのでパス

頂上写真を撮る順番待ちの間にも、次々登山者がガスの中から現れる

暗いイメージが先行していた「耳二つ」は、紅葉が素敵なファミリーの山でした


雲上庭園



2012年10月7日    苗場山

本州の山にあって四国に無い山岳地形の代表は、何と言ってもカールと池塘でしょう

もっとも、石鎚山から西の1866m無名峰までの南斜面は地形的にカールじゃないの?

と、秘かに思っているんですが・・・・・何をアホなことをと笑われるかも

池塘とは、「高山の湿原や泥炭地にある池沼」のことです

信越国境の苗場山は、山頂南西面に4キロ四方にもおよぶ高層湿原が広がり、1000以上の池塘があるとか

農業を司る神の山が黄金色に染まる頃、秘境・秋山郷から登ってみた

カルデラ壁の急坂を登り切り、9合目の坪場に出ると景色は一変する

目の前には、絵に描いたような雲上の日本庭園が広がっている

池塘の形、大小、配置、高低、浮島、水際、草紅葉、借景などこの上ないバランス

専門的な事は分かりませんが、いくら腕の立つ庭師さんといえどもこれほどの庭園は造れないかなと思います

この辺りはまだ高層湿原の入口、頂上へと続く長い木道から見れば遥か彼方まで池塘だらけ

池塘といえば苗場山、というほど強烈な個性を持った山として記憶に残りました


パイプライン



2008年2月11日  石鎚山

「テケテケテケテケ♬」は、もちろんベンチャーズ・サウンドの代名詞です

特に「パイプライン」は、小気味よいテンポに魅せられレコードを何度も何度も聴いた記憶があります

リズムは頭に入っているが、タイトルの意味は最近まで深く考えたことがなかった

パイプラインとは、大波が作り出すパイプ状の水のトンネル空間を意味するサーフィン用語だとのこと

ハワイのオアフ島でチューブライディングするサーファーの姿が目に浮かびます

ところで、石鎚山への土小屋ルートは、登山道に覆いかぶさるようにオーバーハングする岩峰直下を

潜り抜けるように道が付けられ、その空間があたかもパイプライン(ハーフかな?)のように見える

残雪時や大雨の後、落石に注意しながら慎重にルンゼを横切り弥山に立つと

葛飾北斎「富嶽三十六景」21、神奈川沖浪裏に描かれたような 

サーファーイチオシの大波が太平洋から押し寄せている

強引な展開ですが、白い天狗岳を見るとふとベンチャーズを思い出しました


愛称



2008年11月9日  程野滝(東滝)

滝に紅葉は、山の秋を代表する風景です

急峻な地形が多い山国四国には、日本の滝百選に選ばれた8滝の他にもたくさん素晴らしい滝がある

高知県いの町の程野滝は、清水構造帯と呼ばれる断崖を落ちる4本の大滝(大樽、権現、西、東)の総称で

紅葉の綺麗な滝として知られ、地元では「吾北のナイアガラ」と呼ばれている

滝に限らず、山もその個性が強調され、親しみを込めて愛称で呼ばれることがある

阿波のマッターホルン 剣山地の貴公子、ご当地〇○富士、〇○アルプスなど

紅葉が戸中山の裾野まで下りて来た11月初旬、ナイアガラを尋ねてみた

雨後の遊歩道を歩き、西滝から東滝へと巡る 何段にもなって紅葉の中を滑り落ちる西滝

トトロ滝と呼ばれる東滝は、滝幅、落差、水量と三拍子揃い、4本の中で最も壮観な滝です

でも、滝って不思議です 近くでただ見ているだけで、心が清められるような気がするし

一句ひねってみようという気になってくる 自然との関わりを大切にする日本人の血なんですねぇ

花もみち 経緯(よこたて)にして 山姫の 錦織出す 袋田の滝  西行


一粒で・・・



2010年10月27日   獅子舞ノ鼻

今では懐かしい「一粒で二度おいしい」は

江崎グリコが、「アーモンドグリコ」を発売した時に、使ったキャッチフレーズです 

チョコレートにアーモンドを入れただけですが、インパクトが強かったんですね

自宅裏山の稜線がそろそろ赤く染まり始めた頃、獅子舞の大ブナの黄葉の様子を見に行った 

稜線を進むと、アケボノツツジやカエデに薄っすら白いものが見える

高度を上げると、僅かに葉っぱを残した大ブナには、枝がたわむほどびっしり霧氷が着いている

三角点を過ぎ少し下り視界が開けると、ワァオーと目を疑った

紅葉に雲海は珍しくは無いが、霧氷とは! ラッキーです、日頃の行いか?

見頃の紅葉にボリュームたっぷりの霧氷 この感動は足し算で無く相乗効果の掛け算です

大ブナに戻った頃から陽が差し出し、霧氷のかけらがからからと落ちてくる 秋の霧氷は儚い

ぶらっと出かけたら、一粒で二度も四度もおいしい山行になりました 本当に山って素晴らしい


峠の地蔵さん



2012年11月2日   野地峰

峠道を歩いていると、お地蔵さんを目にすることがある

お地蔵さんは、峠道で不幸なことがあり成仏を祈ったり、「辻の神」として、

隣村から良からぬモノ(争いや疫病など)が入って来ないように護ったりしているんだそうです

国境が長い伊予と土佐の間には、たくさんの峠道がある

土佐の朝谷村から野地峰を越え、伊予の津根山村落合への道もその一つ

この道は、かつては白滝鉱山への稼ぎの道であり、仁尾商人の商いの道でもありました

白滝の山村広場から1時間ほどで峠(野地峰の頂上)に着く 北側へ下る道は藪に消えている

山頂標識の側でお地蔵さんが鎮座し、苔生した台座には、文化12年、三島・仁尾の商人と刻まれている 

どんな思いで置いたのか?、どうして首が無いのか? 知る由もないが、

文化という元号は1804年〜1818年  200年もの間、この小さなお地蔵さんは

昔は峠を行き交う人々を、今では登山者を、不自由な身体で見守ってくれているのです

手を合わさずにはおれません


雲海



2015年3月17日   翠波峰

雲海は、山間部などでの放射冷却によって、霧、層雲が広域に発生する自然現象です

翠波峰は素晴らしい雲海が手軽に楽しめる山として知られている

特に晩秋で雨後の早朝、風が無く強い冷え込みが予想される日はまず間違いなし

銅山川流域で発生した霧が、堀切峠を割って北に流れる風景は宇摩地方の秋の風物詩です

ところで春の雲海は?と思い立ち、冷え込んだ朝翠波峰を目指した

自宅から車を走らせ30分足らず 翠波峰吊尾根鞍部に車を停め夜露を払いながら2分で東峰へ

霧が銅山川本流をすっぽり隠し、幾重にも並ぶ山々の隙間を埋める様はリアス式海岸と見紛いそう

最奥には剣山地、三嶺や天狗塚もはっきり見える

秋と異なり、北側も雲海が覆い、工場の煙突群は潜水艦から伸ばした潜望鏡

讃岐の山々は白い海にぽっかり浮かび、東に延びる法皇山脈はまるで半島のようです

時間とともに霧がうねりながら下流に向かい、千切れ始めた綿菓子の隙間から金砂湖の湖面が光りだす

霧氷と同じく雲海も、気温の上昇とともに惜しまれながら消えるからこそ趣がある

時間の経つのも忘れ、壮麗ですが儚い春の山岳ショーに見入りました


山のチカラ



2015年8月15日  剣山から眺める次郎笈

季節の移ろいは早いですね

春の妖精たちが山の扉を開けるや、やれアケボノツツジだ、シャクナゲだ

シコクイチゲだ、と言っている内にそろそろ紅葉の季節になってきた

読書に、人の心を豊かにする「チカラ」があるように、

山にも、登山者の生活に張りをもたらし元気にする「チカラ」があります

日本は島国です 古来日本人は、山や海を神聖なものとして畏れ、敬い、謙虚につき合ってきた 

自然は、様々な恵みをもたらすが、時には大きな災害をもたらす負の側面もある

そんな時 日本人は和の心で助け合い危機を乗り越えてきた

和とは、責任が曖昧となるような集団主義ではなく、人の意見を聞き、理解し、尊重する心です

「謙虚」とか「誠実」とかいう言葉が死語になりつつある昨今、

神々しい次郎笈の姿でも見て、「日本人の心」を取り戻しましょう