大ブナロマン 〜ウエストサイズ物語〜


Tonight  to night〜  It all began tonight
I saw you and the world went away


Tonight to night〜♪  There's only you tonight
What you are, what you do, what you say


Today, all day I had the feeling
A miracle would happen
I know now I was right

For here you are

And what was just a world is a star

Tonight〜

映画館を出るとき、背筋がピンと伸びてナタリーウッドの気分

未だ、耳の奥で「 To night  」の甘い歌声が聞こえている

「貴方を見た瞬間 世界は変わった  今宵 世界は星のようにきらめく」 

素敵な言葉に乙女心がくすぐられます、と言っても、半世紀近くも前の事ですが・・・

なんでそんなに古い事を思い出したかって?

大ブナの目通りを測りながら、思わず口から出たメロディーが 「To〜♪ night」でした

ウエストサイズ→ウエスト・サイドとあまりにも単純

もう箸が転んでも笑えませんが、大ブナロマンを綴るとき、夢見る女学生の気持です


平成24年10月13日  権田山(徳島)
 
目通り5m55cm(山と渓谷社 「四国百名山」)





権田山に聳える大ブナの姿を思い描いて数年、やっと会えました〜

太平洋側のブナは、日本海側のに比べて枝張りが大きいという特徴があるけれど

風雨に晒され、自身の重み、雪の重みに耐えかねたのだろう、痛々しい姿で立っていた 

 永く深い生命の歴史を秘める満身創痍の大ブナ 両の腕を失っても、その威厳は失われていませんでした

一歩下がったところで長年連れ添った夫を見守る連れ合い、通称「権田山の夫婦ブナ」

少し離れた所から、夫婦ブナを畏敬の念で見守る子ブナたち

昔から、親の言うように子は育たぬが、親のするように子は育つと言われてきたけど

改めて、親は後ろ姿で教えるものだとの想いを強くした

我が身を振り返れば、親としての深い考えも持たず子育てして来た事の反省しきり

今更取り返しもつかないけれど、親が頼りなければ確りする子も居ると言う・・・さてさて

草に木に 言問はむ   いにしへも かかりしやと


おのづから染みいづる わびしさ、このあかるさ  (白秋) 





平成24年10月24日 大座礼山(高知)

ネットには、目通り4.27mや4.06mとの表示が見られる 



今は、周りには保護ロープが張られ立ち入ることが出来ないが

第一印象は「綺麗なブナだわ〜」 それ以来、お気に入りの休憩所だった

  友人たちと、枝にぶら下がったりしながら寛いだのは

山に登り始めて数年経った頃だから、もう15年ほど前になるかしらん?

その頃は、木々の香りから始まって見るもの触れるもの全て新鮮 歩くのが面白くて仕方なかった

その面白さを持続しつつ、最近はちょっぴり冒険心も加わってワクワクドキドキも楽しんでいる

もう少し落ち着きが出て来ても良い歳かなとは思うんだけど、いっかな成長が無い

未だに、「To night〜♪」なんて言ってるんだから・・・孫に笑われそうだ




平成24年11月03日  笹ヶ峰南尾根(高知)

目通り4m60cm



広域基幹林道「寒風・大座礼西線」の笹ヶ峰(1859.7m)南尾根登山口から

頂上に向け一定勾配の急坂を頑張ること1時間弱、霧の中に大ブナの森が見えて来た

黄葉には勿論青空 とは言うものの、霧はブナを神秘のベールに包み込み輪郭を一回り大きく演出する



初めて出会ってから、もう十年   ちっとも変っていないねぇ

いろんな事が走馬灯のように頭の中を駆け巡る  白髪が増えたものの、あっという間の十年だったような

ところで、もっともっと昔の話 高校や大学の頃は映画をよく観にいったなぁ

小遣いは殆ど映画に消えていた 今の若者は携帯電話に消えるというのも、とやかく言えません

「ベン・ハー」、「クレオパトラ」、「マイ・フェア・レディー」、「サウンド・オブ・ミュージック」等々

上げれば限が有りませせんが、CGの無い時代、本物の迫力に圧倒されました

「テスト前だから映画館へは行かんように」先生の厳しいお達しも右から左、学校帰りに友人たちと直行

あれほどスケールのでっかい映画を作る国と戦争したって、勝てる筈が無いと

そんなことを考えながら、世界史のテスト勉強をした記憶が蘇って来た




平成24年11月02日 黒岩山(高知/愛媛)

国土交通省の「株立ち」の測定基準で測ってみると

8本の幹回りの合計は15m80cm その70%が目通りだから、ざっと11m!?

この数字が説得力があるかどうか? 公式な測定結果が待たれます

因みに、根本周りは6m15cmです



愛称「黒岩山の八方ブナ」 確かに八方に大きな幹(枝?)を拡げています

お歳はそこそこいっているみたいだけど、お肌に艶が有る

聞けるものならば、美しく老いる秘訣を聞いてみたいものです

四国の山岳地形を大雑把にいえば

東の剣山と西の石鎚山とが吊尾根で結ばれており、ここ黒岩山はその尾根の底

東西の支柱に当たった南風はこの辺りに集まり、やまじ風となって法皇山脈を越え、瀬戸内海に吹き下ろしてゆく

水分をたっぷり含んだ春のドカ雪や大風等、 厳しい自然環境からいかにして身を守って来たのかと思いながら

よく見ると、稜線から少し北側斜面で風除け出来るポイントを選んで立っていました



ガスが晴れ、薄っすら日が差しだすと、頭上が 色鮮やかに輝き出した

野地峰山頂に鎮座するお地蔵さんが、ガスを消してくれたんかな?

先日、 「恵みの森へ白神山地」(根深誠著)を読んでいて出会った東北地方の民話

それは、昔こどもたちにせがまれて読んだ「かさじぞう」、正直爺さんのお話だった

今まで、正直に生きて来ただろうかと、自分自身に問いかけてみたが・・・ちょっと自信が無い

ある日、正直者の徳兵衛じいさんが「まぁ、この雨に濡れてかわいそうに」と

お地蔵さんに自分が被っていた菅笠をかぶせ自分はずぶぬれになって帰って来た

その夜の事、「正直徳兵衛さんのお家は此方ですか」と、戸を叩く音がする

「徳兵衛はわしですが」と答えると重いものをドスンと置く音が響いた

翌朝、戸を開けると其処には千両箱がいくつも積み上げられていた

欲深い欲兵衛というじいさんが聞きつけ、雨が降ると急いで地蔵さんに菅笠をかぶせに行った

その夜、もうそろそろお礼の千両箱が届く頃だと眠りもせずに待っていたところ

足音が近付いて戸を叩く音がした「はいはい、私が今日の昼間笠をかぶせた欲兵衛ですよ」

翌朝早くニコニコ顔で戸を開けた欲兵衛じいさんは、ビックリ仰天震え出した

其処に山と積まれていたものは、瓦のかけらや石ころ、馬糞だったそうだ





平成24年11月10日  面河山(愛媛)

目通り6m03cm 



四国で一番大きいブナがあると、まるでデートにでも誘われたかのようにウキウキと出かけた面河山

笹斜面を這い廻り、六つの瞳で探してみたけど恋人現れず 今回は振られちゃったかな〜

「リンダ困っちゃう」(意味不明です、気にしないで下さい) 狙い撃ちで、来年出直しです  

上写真は探索途中に出会った1本 急斜面に根を下ろし、かなり疲れた姿で立っていた

メジャーは回し難いし、おまけに関取の様にウエストとヒップの区別がつき難い

それでもなんとか測ってみると約6m でかい! 本命はこれよりもっと大きいんだって・・・

目の当たりにすれば、涙が出る程感動するだろう

ところで四国のブナ林(四国に限ったことでは無いかもしれないが)を歩いてみて気になることがある

それは、林床がイシヅチザサで一面覆われ、ブナの実生や稚樹が育つ空間があるのか?ということです

歩くのにも苦労するほどの笹薮で、はたしてブナ林の世代更新ができるのだろうか?

現に辺りを見回しても、幼木或は若木と思われる次世代は見当たらない

イシヅチザサの笹原もそれなりに綺麗だけれど、ブナにとっては厳しい環境かもしれません




平成12年11月16日  駒背山(高知)

目通り 4m50cm 樹齢400年(登山口の案内板より)



伊尾木川源流域の山 登山口から大ブナまで約1時間、大ブナから頂上まで5分

(車道は現在災害の為通行止 最奥の土居集落から登山口まで50分ほど歩く)

ブナは、冷温帯を代表する落葉広葉樹で、その分布は北海道から九州までの広範囲に及ぶ

四国のブナは、標高凡そ1000m〜1700mの中央山岳部及びその周辺山域に分布する

駒背山は南国高知県にあり、標高も1311mと決して高くは無い

頂上直下に根を下ろすこの大ブナも、最近の急速な地球温暖化で、棲み難くなって来たかもしれない

一本の大ブナは、数十万枚の葉っぱをつけ、落葉は他の樹木に比べて腐り難く

厚い腐葉土層を形成し雨の保水力が良い この水量調節機能がお山を守って来た

「COP18で、温室効果ガス排出に関する新たな枠組みを構築しなければ、この山域からブナ林が消滅する」

「緑のダム」と呼ばれる ブナの森から、そんな悲鳴が聞こえて来そうです





平成24年11月18日  獅子舞ノ鼻(愛媛)

目通り 4m45cm(写真上) 4m30cm(写真下)



大永山トンネル南口から笹ガ峰を目指した時、獅子舞の鼻(1470m)直下の窪地から斜面を見上げると

空を隠すほどに枝を張った巨木が目に飛び込んで来た 大ブナです

ブナと言えば、普通樹皮は白っぽく、ツルツルしていて その立ち姿もすらっとしもっと美形と思っていたが

このブナは、そんなイメージとは程遠く、幹肌は苔色 姿は筋骨隆々、厳つく、重量感たっぷりの迫力でした

私にとって、ブナに関心を持つきっかけとなった、いわゆる「原点」とも言うべき大ブナです

誰が名付けたか、何時しか「獅子舞の(鼻の)ブナ」と呼ばれている



「原点の大ブナ」から少し離れた急斜面で、蛸壺に頭を入れ逆立ちした蛸の様なブナが

「私も測って」とアピールしている これじゃウエストと言うより首回りじゃん 蛸のウエストってどこよ?

これもでかい、ほぼ同じ世代です ひょっとしたら夫婦なのかな?

長年、距離を保ちつつ、励まし合って生きて来た強い絆を感じます


この秋、四国の大ブナと言われるブナの一部を思いつくままに駆け足で巡ってみた

目通り何m以上を大ブナというか基準は無いが、私的には4mを目安にしたい

大ブナはそれぞれ個性的な樹形をし、概して足場も悪く測り難いので

計測したウエストの数値は参考程度としておくのが無難です

これから大ブナたちは、厳しい雪の季節を越し

来春また、ライトグリーンの新芽を枝いっぱいに付けて迎えてくれることでしょう

これからもザックにメジャーを忍ばせ、ウエストサイズ計測の山行が続きそうです



平成24年11月23日  伯耆大山・宝珠の巨大ブナ(鳥取)

目通り 4m94cm



ブナのふるさと・伯耆大山の主のような巨大ブナ

「中ノ原スキー場のすぐ側にあるよ」と、教えて貰ったものの、笹薮に分け入り徘徊すること30分でやっとご対面



 戦国武将が甲冑で着飾ったような勇ましい姿でデ〜ンと立っている

「初めまして〜大きいですねぇ」   見下ろしながら「小さいのう」って、言ったかどうか?

古来、人々は、万物には神が宿ると信じていた 

特に巨木や岩、滝、山、海などに対しては、畏敬の念を持ち信仰の対象として来た

普段あまり信仰心が有るとは言えないけれど、巨木を前にして思わず手を合わしたくなるから不思議です

今月は旧暦十月 全国八百万の神々が出雲の国に集まる月

今日は稲佐の浜で、神々をお迎えする神迎神事(かみむかえしんじ)が行われる

「私たち、これから神様にお会いしに出雲へ向かいますが、一緒に行きません?」 

「最近めっきり足腰が弱くなって来たし、今日は天気もなぁ・・・」 

残念ですが、「また雪が積もった頃に会いに来ます」と、お別れして一路出雲へ向かった


何故、こんなにも大ブナが気になり、魅かれるんだろう

癒されるとか、今流行のパワーが貰えるとか、あるいは敬虔な気持ちになるとか

それとも大ブナの様にデーンと構えて、安定感のある政権を期待するのか

もちろんそんな魅力もあるのだろうが、ここは単純に考えて

何百年も生きてきたその姿は、外観はどうであれ・・・味があるんです

そのうち、もっと心ときめく出会いを求めて

「日本一のブナ」があるという、秋田県和賀山塊の白岩岳へ行きたくなるかもしれない

ちょっと遠いなとも思うし、行ってみたい気もするし・・・・・どうしましょう


今夜は、ナタリーウッドを偲びつつ、久し振りにレコードで映画音楽を聴いてみましょう♪

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